
前回はDSMについて解説しました。今回はICDについて解説していきます。DSMとICDは扱っている疾患や目的などが多少異なりますが、どちらも世界標準の基準であるため共通する部分も多々あります。ICDは最近改訂されたため、改訂内容についても言及します。
ICDとはどんなものか覚えていますか?
ICDは世界保健機関(WHO)が作成している疾病の分類です(詳細は前回の記事参照)。ICDに分類された疾病にはアルファベットと数字によるICDコードが記載されており、世界のどの国においてもコードは共通しているため、世界中の疾病の統計情報を参照、比較することができます。
ICD-11が出ました
2019年5月のWHO年次総会でICDの改訂が承認され、ICD-10から新たにICD-11が公表されました。すでに世界では2022年1月に発効していますが、日本では導入に向けて日本語版の作成作業が進められていました。ICD-10の発刊が1990年でしたので、約30年ぶりの改訂となります。ICD-11日本語版の正式運用は2027年1月1日で、これに伴いICD-10は2026年12月31日に廃止されます。
ICD−10とICD-11はどこが違う?
医学の発展に加え、それを取り巻く情報環境が大きく変化したことから、ICD-11では最新の医学的知見を反映し、おもに疾病の分類体系が大幅に拡張されました(章の増加)。またIT化に対応するためICDコード体系が刷新されました(コードの表記の多様化・拡張化)。
ICD-11で新しくなったこと
疾病の分類の章が、ICD-10では第22章まででしたが、ICD-11では章が増え(26章+2章)、分類項目数も増加しました。新設された章は以下のとおりです。
第4章 免疫機構の障害
第7章 睡眠・覚醒障害
第17章 性保健健康関連の病態
第26章 伝統医学の病態・モジュール
第Ⅴ章 生活機能評価に関する補助セクション
第Ⅹ章 エクステンションコード
免疫系の疾患や睡眠・覚醒障害はICD-10では複数の章にバラバラに配置されていましたが、ICD-11では独立した章で整理し直しています。性保健健康関連の病態は性の多様性などにも配慮されており、性同一性障害という病名は削除されています。伝統医学は漢方医学でいう「証」の概念や、気血水、各種病証など、伝統医学による病態のとらえ方などが新たに盛り込まれています。歯科医師国家試験でも和漢薬の出題がみられるようになりましたが、和漢薬の処方には証の知識が不可欠であるため、ICDのような国際的な分類にこれらが記載されることの意義は臨床的に大きなものです。
その他、特徴的な改訂内容
精神疾患や神経発達症などの概念がICD-11からは整理され、DSM5との整合性が高まりました。精神疾患の診断はDSM5に基づくことが多いですが、しばしばICDとの記載の乖離が問題になっていました。ICD-11への改訂で整合性が高まることは、疾病の病態の理解や正確な診断につながるため非常に重要なことです。また、DSM5-TRやICD-11の日本語翻訳版作成にあたっては複数の関連学会から精神疾患の病名に関して表記に配慮するよう提言がありました(疾病像に対する誤解や差別につながる懸念のため)。これを受けて、たとえば「パニック障害」は「パニック症」、「学習障害」は「学習症」、「精神病」は「精神症」などと記載するようになっています。
認知症に関してもいろいろ変わる?
ICD-11では認知症の診断基準などに関する記載も新しくなっています。
とくに重要なのが以下の項目です(抜粋)。
(A) 認知症は以下の認知領域
(1) 記憶、(2)実行機能、(3)注意、(4)言語、(5)社会的認知及び判断、(6)精神運動速度、(7)視覚認知または視空間認知
のうち2つ以上が以前のレベルから低下しているという特徴をもつ後天的な症候群である
従来の基準では「記憶力障害」が認知症診断の必須要件でしたが、ICD-11では必須ではなくなり、7つの認知機能障害の一つとして並列に扱われるようになりました。その結果、「記憶力障害を含まない認知症」の診断が成立し得ることになります。
さらに、新しい認知障害として社会的認知の障害と精神運動速度の遅延が追加されています。「社会的認知の障害」とは周りの人の気持ちを理解できず、周囲とうまく協調、協力できずにぶつかり合ってしまう状態です。患者本人は「うまくやっている」と思っているため、しばしば介助者や医療従事者などと対立が生じる原因となります。世界的に社会的認知がトピックスとして注目されていることが改定の背景にあります。「精神運動速度の遅延」とは加齢に伴って神経伝達速度が日常生活に支障が生じるレベルで遅延した状態です。精神運動速度の遅延と記憶などの認知機能の低下はイコールではないため、見極めが必要であることを今回の診断基準の改定では問題提起しています。
認知症のタイプ分類(Alzheimer型、Lewy小体型、脳血管性など)は従来と変わりませんが、各認知症において、その段階での重症度を併記することになりました。認知症の進行度を明確に評価することが目的です。軽度(Mild)、中等度(Moderate)、重度(Severe)の3段階で評価します。
認知症はICD-10までは「症状性を含む器質性精神障害」に分類されていましたが、ICD-11では「神経認知障害群」という項目に移動しました。神経認知障害群のなかで原因疾患(Alzheimer病、脳血管障害など)ごとにコード化されています。神経認知障害群には認知症のほか、軽度神経認知障害(MND)、せん妄、健忘症なども含まれます。
今後の国試対策において
前回のDSMと今回のICDでそれぞれの最新版について説明してきましたが、最新版の内容を覚えたとしても、従来の国家試験の過去問が解答不能となる心配はありません。
令和9年版歯科医師国家試験出題基準の記載を見るかぎり、病名の表記のほとんどはDSM5やICD-11を意識した内容となっていることがわかります。少なくとも病名に関しては新しい内容にアップデートして覚えておくことをおすすめします。
認知症に関しては近年の国家試験で頻出していることから、新しく変更された診断基準も含め、どのような病気であるかなど、整理し直しておくとよいでしょう。
