「せん妄」という用語は、108回歯科国試で初登場して以降、定期的にみられます。118回歯科国試では「老年症候群」という用語が登場しましたが、「フレイル」「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム」など高齢者にかかわる新しい用語は国試でも増えてきています。
今後、深く問われても大丈夫なように、1つひとつていねいに用語の定義を理解していきましょう。
第1回ではせん妄の基本知識を確認しました。今回は国試でどう問われてきたかみていきます!!
周術期の認知障害との違い
周術期において患者にはさまざまなストレスがかかるため、術後せん妄とは別に認知障害をきたすケースもあります。
周術期の認知障害は術後せん妄よりも発症が緩徐であり、症状の持続時間が長いです。また、せん妄は診断基準に意識レベルの変化が含まれますが、周術期の認知障害では意識レベルは正常です。意識障害と認知障害は意味が異なるため注意しましょう。
認知症との違い
認知症は「発達した知能がさまざまな原因で持続的に低下した状態で、記憶、思考、見当識、概念、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」と定義されています。せん妄のように急性に生じた意識障害や精神機能障害とは根本的に別の疾患です。
認知症 | せん妄 | |
原因 | 脳の構造や機能の異常 (脳の器質的な異常) |
種々のストレス、薬物など (外的要因がほとんど) |
発症 | 慢性、緩徐に進行 | 急性、急激 |
経過 | 進行性で不可逆的 | 一過性で可逆的 |
日内変動 | ほぼなし | 多い |
意識レベル | 安定 | 異常ありもしくは変動しやすい |
おもな症状 | 記憶障害、認知障害 | 意識障害、精神機能障害 |
歯科国試におけるせん妄の出題
108C120
周術期管理において若年者に比較した高齢者の特徴はどれか。2つ選べ。
a 術中の筋弛緩薬の作用時間は短い。
b 術中に要求される静脈麻酔薬量は多い。
c 術後に低体温を生じにくい。
d 術後にせん妄を生じやすい。
e 術後に誤嚥性肺炎を生じやすい。
答え d、e
118D52
周術期管理において、若年者と比較して高齢者に多くみられるのはどれか。3つ選べ。
a せん妄
b 覚醒遅延
c 悪性高熱症
d 誤嚥性肺炎
e 拡張期血圧の上昇
答え a、b、d
108C120や118D52では高齢者の特徴として(術後に)せん妄が生じやすいことが出題されています。
112A19
フレイルで正しいのはどれか。1つ選べ。
a せん妄を伴う。
b 青年期にみられる。
c 進行は可逆的である。
d 診断基準に腹囲を含む。
e 寝たきりの状態をさす。
答え c
「せん妄を伴う」は不正解です。フレイルはせん妄の危険因子ではありますが、フレイルの症状ではないということですね。
110A33
認知症の中核症状はどれか。1つ選べ。
a 幻 覚
b 徘 徊
c せん妄
d 嚥下障害
e 記憶障害
答え e
114D79
認知症の行動・心理症状〈BPSD〉はどれか。3つ選べ。
a 失 行
b 焦 燥
c 徘 徊
d せん妄
e 記憶障害
答え b、c、d
せん妄は認知症の中核症状ではなく、認知症の行動・心理症状(BPSD)としてみられることがあります。 認知症の中核をなすのはあくまでも認知機能の障害です。せん妄とは概念がまったく異なります。認知症と混同しないよう、ていねいに学習しておいたほうがよさそうです。
国試受験勉強レベルではせん妄の病態を理解することと危険因子を覚えることが重要です。
発症後の対応は歯科医師の手には余るため治療法よりも予防がダイジです。
予防するためには危険因子を避けることが基本となりますから、それをヒントに勉強するとよいでしょう。