歯科国試の高齢者関連の出題と関連して、せん妄という用語をみかける機会が増えました。
せん妄に対して「ボケちゃうことでしょ?」「認知症みたいな状態でしょ?」などといったイメージをもっている人もいると思いますが、認知症とは病態が異なります。
せん妄とは
せん妄は一過性で可逆性の軽度意識障害あるいは精神機能障害で、見当識障害、注意集中困難、不穏行動などが急性に生じた状態です。せん妄はDSM5の診断基準に基づいて以下のように分けられます。
⚫︎過活動型:気分の不安定性や幻覚、興奮。協力性低下、不穏行動傾向 ⚫︎低活動型:不活発で嗜眠を伴う可能性。見逃されやすい ⚫︎混合型:注意や意識は障害されているが、精神運動活動は正常 |
DSM5による診断は正確な反面で煩雑であるため、簡便なスクリーニングツールとして、わが国ではCAM(Confusion Assessment Method)の日本語版が広く用いられています。
CAMをより簡便化したCAM-ICUの流れを以下に示します。
術後せん妄とは
術後せん妄とは術後1週間以内の入院中に発症し、せん妄の診断基準を満たした状態です。
歯科領域ではおもに歯科口腔外科手術の周術期に生じるケースが多いことから、術後せん妄に着目していきます。
術後せん妄発症の危険因子(リスクファクター)
●高齢
加齢の影響で精神・神経機能が低下しており種々のストレスへの耐性も低下しています。
●術前併存症
高血圧や虚血性心疾患など内科的疾患の併存のことです。併存疾患が1つでもコントール不良であると発症リスクは高くなります。そのため、米国麻酔学会の術前全身状態分類(ASA-PS)でⅢ以上の場合は術後せん妄発症のリスクが高くなります。
●ポリファーマシー
内服薬が3種類以上の場合、統計的に術後せん妄発症のリスクが高くなるとされています。
●脱水、低たんぱく、低血糖などの低栄養
とくに高齢者では食事の摂取量が減りやすく摂食・嚥下機能障害を有する場合もあるため低栄養によるせん妄の発症に注意が必要です。
●手術侵襲、疼痛
術後せん妄の発症は身体的、精神的ストレスの影響を強く受けるため、ストレスフリーな手術環境と適切な疼痛管理が不可欠です。
●薬物
ベンゾジアゼピン系薬物、ジフェンヒドラミン、スコポラミンなどがあげられます。スコポラミンは抗コリン薬で麻酔前投薬などに使われますが、高齢者に禁忌です。これは、術後せん妄の危険因子であるためです。
他にも危険因子が数多くあるため、理解しておきましょう。
時期 | リスク因子 |
術前 | 高齢、術前から認知障害がある人、複数の術前併存症、ポリファーマシー、低栄養、電解質異常、フレイル、アルコール乱用、術前疼痛、術前不安、喫煙、感染症 |
術中 | 手術の術式(過度・重度の侵襲)、長時間手術、術中出血量、深麻酔 |
術後 | 術後疼痛、手術創感染、睡眠障害、低酸素血症、薬物の影響 |
次回は認知症との違いの整理と、国試ではどう問われているか、どう勉強すればいいのかを確認していきましょう!