今回は、抜歯の器具と手技についてです!
Q. 鉗子の写真を見て、それぞれどの部位に使うのか、下の図の空欄に当てはめてみましょう。
A. 鉗子の種類は見分けられましたか?答えはこちらです。
鉗子は上下顎および前歯、臼歯で形状が異なります。
▶️ 上顎用
▶️ 下顎用
前歯用、臼歯用ともに1回屈曲していますが、把持部に対する屈曲方向が違います。
鉗子での抜歯は基本的に頰舌的な揺さぶりによって脱臼させます。
上顎前歯や下顎小臼歯は単根でかつ円錐状であるため、頰舌的な揺さぶりに回転運動を組み合わせると効果的です。
上顎小臼歯や下顎前歯は単根ですが扁平状であるため、回転運動をすると歯根破折する恐れがあるので注意しましょう。
鉗子で揺さぶるとき、急に強い力を加えると歯の破折や歯槽骨骨折の恐れがあります。ゆっくりと持続的な弱い力を加えるように意識します。
歯根形態や周囲骨の硬化により鉗子での脱臼が難しい場合は、分割抜歯や歯槽骨の削除を行います。
鉗子での抜歯は、挺子よりも組織への損傷をおさえることができ、力や方向の調節がしやすいです。
嘴部を歯の歯頸部に適合させて、しっかり把持します。嘴部を適合させるときは、舌側から適合させるようにします。また、適切に把持しないと滑ってしまったり破折してしまうことがあるので注意しましょう。舌側には歯の落下などに備えて、ガーゼなどを添えるようにしましょう。
挺子は鉗子では把持できない歯(萌出異常や歯冠崩壊している歯)に有効です。挺子による抜歯運動はくさび作用、回転作用、てこ作用の3つがあります。
◆ くさび作用:嘴部を歯根膜腔内に挿入することで歯根膜腔が徐々に拡大して歯が脱臼する
◆ 回転作用:嘴部を歯根膜腔内に挿入して回転させることで歯周靱帯が断裂して歯が脱臼す
◆ てこ作用:傾斜している歯などに対して、起こす力をかけて歯を脱臼させる
挺子を持つときは、下の写真のように手のひらで把持部を覆い、示指を先端近くに添えるようにします。
挺子の操作を誤ると、滑脱して周囲組織を損傷させてしまうことがあります。挺子を用いるときは、挺子を持っていないほうの手を歯や周囲組織に必ず添えるようにしましょう。
挺子は近心頰側隅角に挿入するのが基本です。とくに、下顎は舌側に挺子を挿入してしまうと、滑脱により口腔底へ到達して動脈を損傷させる恐れがあります。
上顎大臼歯は上顎洞が近く、上顎洞底の骨が菲薄であるため歯根を迷入させやすいです。挺子の操作は慎重に行うようにしましょう。
抜歯したあとは抜去歯の形態に注目し、破折していないかを確認します。破折している場合は破折片が窩に残っているので、取り除きましょう。
歯周病変があった場合は歯頸部歯肉、根尖病変があった場合は抜歯窩底部に不良肉芽があるのでよく掻爬します。抜歯窩底部を掻爬するときは、下顎管や上顎洞への損傷に注意しましょう。不良肉芽の掻爬が不十分だと、抜歯後の異常出血の原因になります。
抜歯窩に骨鋭縁があると治癒不全や補綴に支障をきたすため、バーや破骨鉗子、骨ヤスリなどを使って形を整えます。
最後に生理食塩水で抜歯窩をよく洗浄し、ガーゼで圧迫止血します。
抜歯窩の縫合は、切開した場合や抜歯窩が大きい場合に行います。
近年の国家試験(117B4)では、下顎埋伏智歯抜去の切開線について出題されています。
切開線の設定についても確認しておきましょう。
切開線を設定する際にポイントとなるのは、舌神経です。
歯列弓の延長線上の粘膜下には舌神経が存在します。第二大臼歯から遠心切開をするときは、歯列弓の延長線ではなく、下の図のように歯列弓の延長線よりもやや頰側に角度を付けます。
下顎骨体部から下顎枝への移行は外側に大きく開く形をしています。そのため、歯列弓の延長線上に切開線を設定してしまうと下顎枝の内側に入りすぎてしまいます。実際に行うときは、内斜線と外斜線の間で骨を触知して切開線を設定するようにしましょう。
近心は必要に応じて第二大臼歯の頰側歯肉溝切開を経て縦切開します。
※ここでは内斜線は下顎枝内側の隆線、外斜線は下顎枝前縁から骨体部外側の隆線として解説しています。放射線学や補綴学など分野によって定義に違いがあるので注意してください。
抜歯の基本とポイントは理解できましたか?
次回は国家試験の問題を解いてみましょう。