今回は、直接訓練について確認していきましょう!
7人の患者さんについて、どの訓練方法をしているのか考えてみましょう!
【1人目】
86歳女性、食事中は周囲のことが気になってしまい、よく嚙まずに飲み込んでむせてしまいます。食事に集中できるように声掛けを行いました。
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【1人目】解答
嚥下の意識化です。
食事に集中できずに咀嚼が不十分な状態で飲み込んでしまうことが原因で誤嚥してしまっています。そのため、嚥下を意識的に行うことで食事の状況を認識してもらい、誤嚥を防ぎます。
【2人目】
75歳男性、食べ物を口いっぱいに頰張ってしまうのが癖で、むせてしまいます。スプーンに適量をのせて渡すことにしました。
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【3人目】
90歳女性、ベッド上でリクライニング位での食事介助を受けています。食事中、VEにて観察を行ったところ、食物の喉頭侵入によるむせと嚥下後の喉頭蓋谷への食物残留を認めます。クッションで頭頸部を屈曲させて、おへそをのぞき込むように指示しました。
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【3人目】解答
顎引き嚥下です。
頸部が伸展していると食物が喉頭へ流れ込み、誤嚥しやすくなります。頸部が伸展しないように枕やクッションなどで頭部を固定して、顎を引くように頭頸部を屈曲させます。
また、喉頭蓋谷(舌根と喉頭蓋の隙間の部分)に食物が残留していることから、舌根後退力や咽頭収縮が不十分になっていることが予想されます。顎を引くことで舌根が咽頭後壁に近づき、咽頭腔を狭めることができます。咽頭腔を狭めると咽頭内圧が上がるため、喉頭蓋谷に食物が残留するのを防ぐことができます。
【4人目】
82歳男性、脳梗塞の既往があります。食事中、VEにて観察を行ったところ右側の梨状陥凹に食物残留を認めます。右側を向いて嚥下してもらうことにしました。
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【4人目】解答
横向き嚥下(頸部回旋)です。
片側の梨状陥凹に食物が残留してしまうことから、咽頭機能に左右差があることがわかります。
嚥下前に患側を向くことで患側の食道入口部がつぶれ、健側の食道入口部が広がることで食塊通過がスムーズになります。
この患者さんの場合は、右側が患側となるため、右側を向けばいいですね。
また、梨状陥凹とは喉頭口の両側にある凹みです。喉頭蓋谷とまちがわないようにしましょう。
【5人目】
80歳女性、水の摂取量は正常ですが一度の嚥下で飲み込みきれず、嚥下後に湿性嗄声を認めます。もう一度飲み込むように指示しました。
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【6人目】
87歳男性、認知症の既往があります。食事の観察を行ったところ、食形態は普通食で、よく嚙まずに飲み込もうとしてむせてしまいます。普通食からミキサー食に変更することにしました。
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【6人目】解答
食形態調整です。
嚥下訓練などで改善はできるかもしれませんが、患者さんは認知症であるため、指示動作は難しい場合があります。複雑な動作を必要としないアプローチとしてむせにくい食形態を選択します。
嚥下しやすい形態としては
・軟らかい
・粘り気がない
・まとまりやすい
・均質な形態
があげられます。
国試114A38で日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2013」について出題されました。改訂版の「嚥下調整食分類2021」を確認してみましょう。
嚥下調整食の種類 | 例 |
0j:嚥下訓練食品 | タンパク質含有量の少ないゼリー |
0t:嚥下訓練食品 | とろみ水 |
1j:嚥下調整食 | プリン、ゼリー、ムース |
2-1:嚥下調整食 | ミキサー食・ペースト食(おもゆや粥) |
2-2:嚥下調整食 | ミキサー食・ペースト食(付着性、離水が低い粥) |
3:嚥下調整食 | ソフト食(離水に配慮した粥) |
4:嚥下調整食 | ソフト食(軟飯・全粥) |
食形態については実習のミールラウンドなどでもよく観察しておきましょう!
【7人目】
85歳女性、嚥下機能は概ね良好ですが、食物の嚥下後に咽頭の残留感があります。次に水を摂取するように指示しました。
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最後に国試の問題を1問解いてみましょう!
111D85
79歳の男性。食事摂取の困難を主訴として来院した。水でむせやすくなり、食事時間が長くなってきたという。嚥下反射の惹起は良好である。米飯摂取後の嚥下内視鏡検査の画像を別に示す。
この状態を改善させるのはどれか。1つ選べ。
a 頸部回旋
b 頸部伸展
c 息こらえ嚥下
d 嚥下の意識化
e 体幹角度調整
解答 A
解説
嚥下内視鏡の画像から、右側の梨状陥凹に食物残渣を認めます。
右側の咽頭機能低下や食道入口部の開大不全が考えられるため、左側を食塊が通過できるように右側を向いて嚥下してもらいます。
他の選択肢も確認しましょう。
Bの頸部伸展は誤嚥しやすくなってしまいます。
Cの息こらえ嚥下は次回の間接訓練でも扱いますが、嚥下中の誤嚥防止や喉頭侵入した食物を喀出する目的があります。梨状陥凹の食物残渣は改善されません。
Dの嚥下の意識化は嚥下運動を確実にすることで誤嚥や咽頭残留を防ぐことを目的としますが、梨状陥凹の食物残渣は改善されません。
Eの体幹の角度調整は食塊の送り込みを改善することはできますが、右側のみの食物残渣を改善することはできません。
直接訓練は他にも種類があり、実際はさまざまな訓練を組み合わせて対応します。
教科書や臨床実習などでどのように応用されているか確認しておきましょう!
次回は間接訓練について整理しましょう!